広島高等裁判所岡山支部 昭和39年(ネ)116号 判決 1965年9月06日
控訴人(被告) 青山菊野
<外五名>
右代理人 藤井稔
被控訴人(原告) ボルネオ商会
右代理人 松岡一章
主文
一、本件各控訴を棄却する。
二、控訴人青山栄樹に対する関係において、昭和三八年二月一四日別紙目録記載の土地・建物につきなされた、贈与者を青山勇、受贈者を青山展枝とする持分六分の一の贈与を取り消す。
三、控訴人青山栄樹は、右土地・建物につき岡山地方法務局昭和三九年二月二〇日受付け三八八七号をもってなされた同年一月二〇日付け贈与を原因とする持分移転登記の抹消登記手続をせよ。
四、当審における訴訟費用は控訴人らの連帯負担とする。
事実
一、双方の申立て
1、控訴人らは「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人の新訴につき請求棄却の判決を求めた。
2、被控訴人は主文一項同旨および訴訟費用は一、二審とも控訴人らの負担とするとの判決を求め、当審において新たに主文二、三項同旨の判決を求める旨を申し立てた。
二、双方の主張と証拠
当事者双方の主張および証拠の提出・援用・認否は、左記に付加するほか、原判決事実摘示に記載するところと同一であるから、これを引用する。
1、被控訴人側
イ、控訴人展枝は、本訴が原審に係属中の昭和三九年一月二〇日、本件土地・建物に対する持分六分の一を控訴人栄樹に贈与し、主文三項掲記のような持分移転登記を経由した。控訴人栄樹は右転得の当時、悪意であったものであるから、同控訴人(転得者)に対する関係において、主文二項掲記の贈与(詐害行為)の取消しを求め、あわせて前記持分移転登記の抹消登記手続を求める。
ロ、立証として≪省略≫
2、控訴人側
イ、控訴人展枝より同栄樹に対する贈与および登記の事実は認める。
訴外青山勇が被控訴人に対する債務のほか、他に一〇〇万円以上の債務を負担したことは認める。同人が本件土地・建物を控訴人らに譲渡した当時の価格は、土地は坪当たり一万円以上、建物は全体で約一〇〇万円である。
ロ、立証として≪省略≫
理由
一、受益者に対する請求について
1、原判決記載の請求原因一、二の事実(被控訴人の債権の存在、青山勇より控訴人らに対する贈与と登記)は、当事者間に争いがない。
2、≪証拠省略≫によれば、訴外青山勇は右贈与当時、事業に失敗して本件土地・建物のほかに不動産はなく、時価十数万円の動産と約六〇万円の売掛金債権を有していたことが認められるが、右債権の実質的価値は明らかでなく、これらの事情については、その後も特段の変化がないことが弁論の全趣旨により認められる。したがって、債務者勇より控訴人らに対する本件土地・建物の贈与が被控訴人ら債権者を害するものであることは明白である。
3、控訴人らが勇の妻子であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により右贈与の当時、同居していたものであることが認められるから、これに前記認定事実を綜合すると、勇は右贈与が債権者を害することを知っていたものと推認される。控訴人らは、勇が被控訴人の債権の減額を確信していたと主張するが、これを肯認するに足る証拠はない。
4、控訴人らは、右贈与が勇の債権者を害することを知らなかったと主張するが、これを認めうる証拠なく、かえって前掲法定代理人勇本人の供述によれば、その妻子たる控訴人らも勇の営業不振と債務負担を大体のところ知っていたことが推認されるから、右主張は採用のかぎりでない。
5、そして≪証拠省略≫によると、本件処分行為の時(昭三八・二・一四)はもとより現在においても、本件土地・建物のいずれか一方をもってしては債権者たる被控訴人の債権を満足せしめるに足りない(土地・建物それ自体の客観的価格からして然るのみならず、現在時においては、さらに訴外株式会社森永石油店のため債権元本極度額六〇万円の根抵当権が設定されていることが、≪証拠省略≫により明らかである)から、本件土地・建物の全部につき詐害行為(贈与)の取消しを求め、右贈与に基づく登記の抹消を求める被控訴人の請求は正当である。
6、控訴人展枝については、同控訴人が勇より贈与を受けた本件土地・建物に対する持分六分の一につき、昭和三九年一月二〇日これを他の受益者の一人である控訴人栄樹に贈与し、同年二月二〇日その旨の持分移転登記を経由したことは、当事者間に争いがなく、これによると、詐害行為(勇と展枝間の贈与)の取消しおよび右持分六分の一に関する移転登記の抹消は、転得者たる控訴人栄樹に対して訴求すべき筋合いである。そして、これを求めるのが被控訴人の当審における新訴請求であり、その認容さるべきこと後述のとおりであるが、転得者栄樹に対する持分移転登記が抹消されれば、受益者展枝に対する移転登記が復活することとなり、これが残存するかぎり、被控訴人は詐害行為取消しの目的を達しえないことが明らかである。したがって債権者たる被控訴人は、転得者栄樹に対する関係において詐害行為の取消しを求めると同時に、その勝訴判決の確定により生ずる前記の法律関係を解消するため、受益者展枝に対する関係においても同様詐害行為の取消しを訴求しうるものといわなければならない。被控訴人が転得者に対する請求を追加しつつ、受益者展枝に対する関係を含めて一審判決をそのまま維持しようとする(昭和四〇年四月一日付け請求の趣旨並原因追加訂正申立書、同年八月九日付け請求の趣旨並原因訂正申立書参照)趣旨も、結局ここにあるものと認められる。
7、以上、被控訴人の受益者に対する請求は控訴人展枝に対するそれを含めて正当であり、これを認容した原判決は相当である。
二、転得者に対する請求について
1、控訴人栄樹が受益者の一人として、その父たる債務者勇より本件土地・建物に対する持分六分の一の贈与を受け、これが詐害行為として取消しを免れぬこと、同控訴人が他の受益者の一人である控訴人展枝より持分六分の一の贈与を受け、その旨の登記を経由したことは、前述のとおりである。
2、控訴人栄樹は、さきに説示したところと同一の理由により、転得者たる立場においても前記詐害行為の取消しを免れない(展枝よりの贈与は本訴が原審に係属中になされたものであるから、転得者栄樹の悪意はよりいっそう明白であるといえる)。よって、転得者栄樹に対する関係において、詐害行為(勇より展枝に対する贈与)の取消しおよび移転登記の抹消を求める被控訴人の請求は、正当である。
三、結語
よって、被控訴人の従前の請求につき本件各控訴を棄却し、当審における新訴請求を認容することとし、当審における訴訟費用につき民訴九五条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林歓一 裁判官 可部恒雄 八木下巽)